次の日の学校で杏ちゃんに柴崎くんと付き合うことになったということを報告した。すると杏ちゃんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
だけど、その日は柴崎くんとまともに話すことができなかった。緊張のせいでふたりしてよそよそしい雰囲気になってしまう。
明日こそちゃんと話せるようになろう。それを何度か繰り返していくうちに少しずつ慣れていく。
柴崎くんの部活が忙しいので放課後や週末を一緒に過ごすということはできなかったが、学校に行けば会うことも話すこともできるのでよりいっそう学校に行くことが楽しみになった。
好きな人と両想いになり付き合うことにもなって幸せな毎日。だけどただひとつだけ悪い意味でドキッとすることがあった。
「結局ふたりが付き合うんだね、おめでとー」
私たちのことが周りに知れていくようになった頃のこと。私が1人で廊下を歩いていると、向かい側から数人で歩いてきた藤城さんがすれ違いざまに言った一言だ。
そう言った彼女の表情は口角は上がっているが目は笑っていない、少し怖いものだった。
そのまま歩いていく彼女たちの方を慌てて振り返ると、藤城さんはもうこちらを見ていなかったが彼女の周りの友人たちは私の方を睨むように見ていた。すぐにその子たちも顔を進行方向に戻していたが、私は一瞬足がひるんでしまった。
だけどすぐに立ち直る。私は別に悪いことをしているわけではないのだから、彼女たちのことは気にする必要なんてないはずだ。
そして藤城さんが絡んでくることはそれ以降なかった。
元々彼女とは交流もなかったし、何も変わらない日常を過ごしていった。
「柴崎くん、図書室まで一緒に行こう」
「おう」
今週は図書委員のカウンター当番の担当、そして今日は柴崎くんと一緒に放課後のカウンター当番ができる水曜日である。
短い時間だけどふたりで放課後のカウンターに入ることは、一番最初の頃と違って幸せを感じる。
「今日はなんだか利用者さんがいないね」
「うん、暇だな」
放課後の図書室はいつも数人は人がいるのだけど今日はどうしてだか1人も姿がない。放課後だからそんな日があってもおかしくはないけれど。
何もすることがなくて少しの間私たちの中に沈黙が流れたが、柴崎くんがそれを破ってくれた。
「そうだ、まだ言えてなかったんだけどさ、今度の試合でスタメンに選ばれたんだ」
その報告に私は一気に興奮する。
「本当!?すごい、おめでとう!」
図書室だというのに大きな声を出してしまい、ハッとして口元を押さえる。そんな私を見て笑う柴崎くん。
「ありがとう」
「ねえ、その試合っていつ?私も見に行ってもいいかな?」
今度は声を抑えて話す。柴崎くんは試合の日程と会場を教えてくれた。
そういえば部活の試合を見に行くのって初めてだな。今からとても楽しみだ。


