その後ものんびりと話をしながら掃除をしていると、ちらほらと体育館に向かっている人たちが出てきた。

「そろそろ、私たちも終わらせようか」

1階の階段の下まで掃き終わり、塵取りでごみを取って顔を上げるとそこにちょうど原田先輩がいた。先輩も友達と一緒に体育館へ移動しているところだったのだろう。

挨拶をしようとすると、私よりも先に先輩が口を開く。

「たぬきだ、元気?」

こんにちはと言おうとした口を閉じてムッとする。あの絵を思い出して顔が赤くなるのがわかった。

「たぬきじゃないです!」

私がそう反論すると先輩は笑って過ぎ去っていった。

ひどいと思っていると、近くにいた杏ちゃんが何事だろうといった顔をしてこちらを見ている。そして私に「たぬきって何?」と尋ねようとしてくるのがわかったが、それよりも先に後ろから声がする。

「たぬきって何だ?」

びっくりして振り返ると柴崎くんがいた。声の主も彼である。掃除の帰りか、雑巾を手にしていた。

「えっと、私が描いたポメラニアンの絵を先輩がたぬきだって勘違いしたのが原因…なのかな?」

「…ふうん、よくわからないけど、そっか」

そう言って柴崎くんは階段を上がって行った。なんだったんだろうかと思っていると、杏ちゃんも驚いたような顔をしていた。

「なんか、先輩と仲良くなってるみたいだし…何より柴崎……」

そう呟くと杏ちゃんは笑い出した。

「ど、どうしたの?」

「なんでもなーい!それより、たぬきの詳しい話教えてよ」

柴崎くんのことが気になりながらも、杏ちゃんにたぬきのくだりを話しながら教室に一旦戻っていった。



それから先輩に会うと時々たぬきネタでからかってくるようになっていた。先輩にとってあの絵はそんなにツボだったのだろうか。

からかってくるようになってからは、前のようにとても優しい先輩という印象が少し形が変わってしまったが、それでも先輩は先輩のままだなと思うこともある。委員会でわからないことがあればちゃんと優しく教えてくれる。

でも前よりも先輩に親しみを感じることができて、いいことであると思う。


そしてこの時から、静かにいろいろなことが動き始めていたのかもしれない。