True Love

「…何を描きましょう」

「じゃあ、桐山の好きな動物を描いてみてよ」

先輩の助言から犬を描いて見ることにする。犬種はポメラニアンにしよう。東京の友達の家で飼われていたポメラニアンを思い出しながらスケッチブックに描く。

描いている途中から「これはいけないやつだ」という自覚はちゃんとあった。

「……えっと、できました」

私のその言葉で、それまで空を見上げていた先輩が楽しそうに私の方を向く。そして私が躊躇しながら渡したスケッチブックを手に取り、一瞬「ん?」というような表情を見せる。

「わかった、たぬきだ!」

私は自分が描いたポメラニアンの絵をたぬきだと言われて言葉を失う。

「でも好きな動物描いてって言って、たぬきを描くなんて珍しいなあ…」

「ち、違いますっ…!それ、ポメラニアンです!!」

ようやく先輩の勘違いに否定することができた。先輩はぎょっとしてもう一度スケッチブックに目を向ける。そして笑いだす。

「ごめんごめん。でもこれはたぬきだろう」

「ポメラニアンですー!!」

むきになって反論する私に対してさらに笑う先輩。

「桐山ってこういうの上手くこなしそうなイメージだったわ」

「だから先生に個性的だって言われたって言ったじゃないですか…。私も原田先輩はこんな時も優しい言葉をかけてくれる人だと思ってました」

「それはそれは、ご期待にそえなくて申し訳ないね」

私は自分が描いたページを破ろうと、先輩からスケッチブックを奪おうとするがかわされる。

「何するつもりだよ」

「私の絵のページを破るんです!」

「ダメダメ、破らせないよ。それに桐山の絵の後ろにも俺の絵があるしね」

先輩の絵が後ろにあるということはそのページを破るわけにはいかない。でも幸いにも私が絵を描いたツールは鉛筆だ。

「じゃあ、消させてくださいよ」

「それもダメ。これも先輩命令ね」

さっきから立場を利用してきてずるい人だ。今日は先輩の新たな一面を知ってしまったなあ。

「さあ、帰るかな」

そう言って先輩は立ち上がる。私もそろそろ帰ろうと立ち上がるが、座っていた場所が少し坂になっていたのでバランスを崩して前のめりに倒れそうになる。

「きゃっ」

転んでしまうの覚悟したが、私は転ばずに済む。先輩が私の手を引っ張って、先輩の方へ引き寄せてくれたのだ。

「何してるんだよ、転げ落ちるぞ」

「す、すみません!ありがとうございます…!」

先輩との距離があまりにも近くて、慌てて先輩から離れる。

「気を付けろよ。さあ、帰ろう」

意地悪な一面も発見したけど、やっぱり先輩は優しい。「帰ろう」と言った先輩の微笑みは優しさに溢れていた。