True Love

「桐山?」

スケッチブックを膝に抱えて花に囲まれながら座っている原田先輩は私の姿を見て少し驚きを見せた。突然私が話しかけたのだから当たり前の反応ではあるが。

「こんにちは。土手の上から先輩の背中が見えて…、先輩だって確信はなかったんですけど声をかけさせていただきました」

「そっか」

ほんの少し見えた先輩のスケッチブックには目の前に広がる大輪の花が描かれていた。まだ色はついていないけれど、とてもきれいな絵だと思った。

「なんとなく絵を描きに外に出てみたんだけどさ、ここすごくきれいだよな。なんか惹かれてしまってここで絵を描いてたんだ」

「私は散歩をしてたんですけど、同じくこの花たちに惹かれてしまいました。失礼でなければその絵を見させてもらってもいいですか?」

私がそう言うと先輩は少し困ったような顔をする。

「本気で描いてた絵じゃないからなあ…」

少し見えただけでもきれいな絵だと思ったのに、先輩はそう言ってそのスケッチブックに描かれた絵を見せてはくれなかった。

だけど、その後も先輩との会話は続いた。

「あ、でも私先輩の絵を見ましたよ、階段の踊り場で」

「ああ、あれか」

学校の階段の踊り場には美術部の人たちが描いた少し大きな作品が飾られている。そしてその私が見た先輩の絵の下には県大会に入賞したということが書かれていた。

「あの絵も花の絵でしたね。とてもきれいな絵で私、感動しちゃいました!」

「いやいや…」

先輩は困ったように笑った。

「私の美術はまるっきりダメでして…。授業の時に先生が私の絵を見て『個性的ね』って言ったんです」

「ははは、でも個性的だっていいことだよ」

「先生の言った個性的は絶対に褒め言葉ではないと思いますがね…」

すると先輩がスケッチブックの何も描いていないページを開いて鉛筆と共にそれを私に差し出してきた。

「何か描いてみてよ」

「えええ!?そんな上手い人に私の絵を見せるなんて…」

「いいから、いいから。先輩命令だよ」

ここで先輩という立場を使ってくるとは原田先輩も意地の悪いところがあるんだな、と思いつつ渋々スケッチブックと鉛筆を受け取る。