True Love

「どうして柴崎のこと好きになったの?最初の頃はカウンター当番を一緒にするのも憂鬱そうだったのに」

杏ちゃんは不思議そうにそう聞く。確かに、最初の頃は柴崎くんのこと何も知らなくて、ただぶっきらぼうな彼のことが苦手だったな。

「…柴崎くんのことを知っていくうちに、優しいんだなって思って…」

相手のことを何も知らないで苦手意識を感じてしまうのはいけないと今ならそう思える。

私の返答を聞いて杏ちゃんは「そっか、そっか」と笑っていた。

「でも、私は柴崎くんに女子として見られてないからなあ…」

「え?何それ」

この前柴崎くんに『桐山は平気』と言われたことを話すと眉間に皺を寄せた表情を見せる杏ちゃん。

「えっと…それって、女子と見られてないというか……。あ、言わない方がいいか」

何かを言いかけてそんなことを言われるので、何を言おうとしていたのか気になる。だけど、教えてよと言っても杏ちゃんは教えてはくれなかった。

「あ、でも今日は絶対に女の子として見てくれるよ!こんなに可愛いもん!」

「浴衣効果あるかな?なんてね!須田くんは杏ちゃんに見惚れちゃうね!」

そうやって話をしていると、待ち合わせ時間の15分前に待ち合わせ場所だという電柱の前に着いた。

「京平は時間ぎりぎりに来る奴だからちょっと待つね。柴崎も多分京平と来るだろうし」


その言葉通り、彼らが待ち合わせ場所に姿を現したのは6時ジャストだった。

「お待たせ!」

須田くんと並んで歩いてきた柴崎くんを見てドキッとしてしまう。

初めて、私服見た…。制服とはまた違う雰囲気だな…。

「やっぱり浴衣女子っていいな!大森でも女子らしく見える!」

「はあ?殴っていい?」

杏ちゃんたちがそんなやり取りをしている横で柴崎くんが私に向かって「よう」と軽く手を挙げて言った。

「こ、こんばんは。今日、楽しみだね」

「おう」

いつかのカウンター当番の時のやり取りのような返事。だけど違うのは、今のは優しい微笑みとともに言われた言葉だということ。

柴崎くんは私の浴衣姿にノーコメントだったけど、「浴衣、どう?」なんて聞く勇気があるわけもなく、浴衣に関する話はできなかった。

…浴衣着たからって、そんなに変化があるわけないか。