突然現れた声の主は
高瀬くんの彼女さんだった。



いつから戻ってきてたんだろ…
ちょっと彼女さんの前で
馴れ馴れしかったかな…。



あたしの心配をよそに
2人の口論が繰り広がる。





「おい、帰るって…
まだ全然回ってねえじゃん」

「今日はなんか疲れたし〜。
この高校も、もーちょい
期待してたんだけど、
あんま楽しくないや!」

「おい、莉乃…」

「てか、そもそも
なんであたしが宏太に
会いにきてあげてるわけ!
今度からは宏太が
会いに来てね〜ばいばーい」

「あっ…行っちゃった。
ごめんなー、あいつ、
失礼なこと言って」

「や、私らは別に
いいけどさ…。
その、失礼かもしんないけど、
高瀬くんはいいの?
いつもあんなかんじ?」

「そー。わがままだろ。
確かに、わがままなあいつにも、
そのわがままにいつも
何も言えない俺にも、
たまにイラっとするけどさ…」



高瀬君は彼女さんが消えた
曲がり角をじっと見つめる。



「あいつ、あの通り感情の起伏が
激しいからさ、
嬉しい時は本当にめっちゃ
喜ぶんだよね。
そん時のあいつの笑顔で、
俺の小さな苛立ちとか
全部吹っ飛ぶんだぜ。
…笑っちゃうでしょ?」


そう言う高瀬君の目は
あの優しい目になっていた。







ああ、だから本音が
言える相手がいるの
羨ましいって…。

それに彼女さんのこと、
すごく好きなんだって
伝わってきた…。

だからその分、今日勝手に
帰られちゃったのが
本当に寂しそうで。

無理して笑う君は
壊れそうで。

それでも、今寄り添っていいのは
私ではなくて。
私は求められていなくて。







ああ、そっか。

なにが傷は浅いだよ…。



もうとっくに
始まってたんだ…私。