「うん。桃野だって、俺名古屋に行っちゃうのにいいの? 近くにいるひとのが、いいかもしれないよ」

「わたしは朝奈が好きだから、いいの。もしいいなら、会いに行くよ。離れるのはそりゃー寂しいけど、でも、がんばるよ」


わたしはもう、大丈夫。

離れたことないから、わかんないけど、もし彼女になれたならがんばろうって気持ちは今もうここにある。


「俺も、会いに来る。だから、大丈夫だね」

「……よろしくお願いします」

「こちらこそ。じゃあ、今日せっかくだしこれからどっか行く?」


嬉しくて嬉しくて、朝奈に飛び付きたいくらい嬉しくて。飛び付いてしまわないよう一歩引いて、優しい笑顔にうなずいた。

チャンスをくれて、どうもありがとう神様。あと、それから碓氷くんも。親切なおせっかいを、ありがとう。

おかげで、ちゃんと自分の気持ちを伝えられた。


「準備するから、少し待ってて」

「ん、待ってる」


せっかくだし、もっとちゃんと着替えてこよう。またニヤニヤされそうだけど、仕方ないかな。そう思って急ぐと「桃野」と、声がして振り向いた。


「ん?」

「……好きだよ」


窓から入り込んだ春風が、まるで祝福するかのように優しく吹いていた。


end.