「こんなに熱あるなら、俺はいいから大人しく寝とけ」
今にも倒れそうな桐生に一言詫びてから、太ももの裏に手を回す。
桐生に部屋を尋ねると、そのまま抱き上げてベッドへと運んだ。
「ちゃんと寝るんだぞ?」
そう言って部屋を出ようとする。
その時くいっと制服の袖を掴まれた。
「ん、どうした?」
喉でも渇いたのかと聞いてみる。でも違うようで、首を振られただけだった。
「…が……いで」
「え?」
聞き取りやすいように顔に耳を近づける。
ようやく聞き取れたそのか細い声に反応し、俺は桐生の顔を見た。
「お願い…行かないで」
小さい子供が親に言うような、わがままみたいなその言葉。
涙がにじんだその顔に、泣いてる桐生を見ることが多いことにもどかしさを感じた。
変なとこばかり表情に出すなよな。
「……どこにもいかねーよ」
服の袖を掴んでいた手をそのまま上から握る。
そして、次に見た桐生の顔に俺は目を奪われた。
わ、笑ってる……!
涙を浮かべながら穏やかに微笑んでいる桐生に、ぎゅっと胸がしめつけられる。
そして、誘われるように桐生の笑顔に顔を近づけた。
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