「いらっしゃい。まぁ、上がって」


言われるがままに家に上がる。
こんなにあっさり俺を家に上げてもいいんだろうか。

「親は?買い物とかか?」

玄関に桐生のローファーしかないため尋ねてみる。


「2人とも仕事に行った」

そう答えた桐生はやっぱり無表情だった。

ってことは、この家には桐生と俺だけしかいないのか…
そう考えて急に心拍数が上がる。

何意識してんだ、俺。相手は無表情で、桐生で、病人だぞ。


明らかに挙動不審だっただろうけれど、桐生がこちらを振り向かなかったおかげでなんとか気付かれることはなかった。





「そこにでも座ってて」


桐生が指したソファに座ろうとする。
しかしそこには先客がいた。

「桃太郎!」

ここにいたのか。だからいつもの場所にいなかったわけだ。
ごろごろと気持ちよさそうに転がっている桃太郎とその子供たち。

そのなごやかな様子につい笑みがこぼれた。
しゃがみこむと、手を伸ばして桃太郎の顎をなでる。そのとき、桐生のいる方から大きな音が響いた。



「どうしたっ!?」

慌てて立つとすぐに桐生の元に駆け寄る。
そこには辛そうに体を壁に預ける桐生と、砕けたグラスが散っていた。



「ごめん驚かせちゃって」


すぐに片づけるから、と破片を集める桐生の手を止める。
触った手は、この前よりも明らかに熱を帯びていた。









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