「もーえ?」
「……っ!!」
ぐい、と霧谷くんはあたしに顔を近づける。
つい後退りそうになるけど、霧谷くんの手があたしの腰に回っていて動けない。
いっ、いつの間に!!
「はやく言わないとキスするぞ」
「い、言う!言うから!」
ち、近いよぉ〜〜〜!!
「えっと、ね……ちょっと、本当にちょっとだけね……残念だなぁって、思っただけで……」
「………?」
あ、分からなかったかな?
「さっきの……だけど、あたしは昨日のこと覚えてない、から……」
うぅー……だから……
「き、キスのこと……覚えてなくてちょっとだけ残念だなぁ〜って……」
「…………」
はっ、反応して!!せめて反応して!!
笑うでも貶すでもいいから!!
「きゃっ………」
しばらく沈黙が続いたかと思うと、いきなり苦しいぐらいにぎゅうっと抱きしめられた。
「えっ!霧谷くん!?」
カアァ、と顔が熱くなる。
ドキドキというあたしの心臓が嫌でも聞こえる。
「霧谷くん……?」
「……萌、可愛いすぎ」
「えっ!?」
どどど、どうしたのいったい!?
「残念なの?」
「う、うん……」
ちょっとだけ…だけど。
あたしだけ覚えてない、っていうのもなんか寂しいし……
「じゃあ、目閉じて」
「へ?」
どこからそういう流れになったの?
そっと霧谷くんは腕の力を抜いてあたしを見る。
あたしも霧谷くんの綺麗な目を見つめ返した。
どきん、と……心臓が音をたてる。
深く考える前にあたしは自然と瞼を閉じる。
暗くなった視界の向こうで霧谷くんが笑った気配がした。
「よくできました」
霧谷くんの優しい声がしたのあとに、あたしと霧谷くんの唇が重なった。


