「流〜、今帰ったわ、よ……」



まだ布団の中にいるから隠れればよかったものを、あたしと入ってきた人の目はバッチリあってしまった。



シーン、と空気が固まる。


え、と……どうしよう?


どうにかしなくちゃいけないのは頭では分かるけど、体が動かない。


まず、まだあたしの上には霧谷くんがいるから動けないんだけど……



「……な」



まずこの女の人は誰だろう?と思ったとき、その人はわなわなと口を開いた。


そして、



「流が女の子襲ってるうぅーーっ!!」



そう大きな声で叫びながら下におりてしまった。


ぽかーんとするあたしの上から、霧谷くんのため息が落ちてきて。


そっと見上げた先には、しまった、というような霧谷くんの顔があった。



「霧谷くん……?」


「はぁ……ごめんね、萌」



何に対してのごめんかは分からなかったけど、とりあえずふるふると首を振る。


起き上がった霧谷くんに引っ張られるようにして、あたしもベッドから体を起こす。


もちろん、ボタンとリボンも留めてから。



「霧谷くん、あの女の人は……?」


「あぁ、母親」



あたしの髪をいじりながらさらっと言われた言葉に、一瞬頭に"?"が浮かぶ。



「……母親?」



つまり……霧谷くんのお母さん?



「たまにノックも無しに入ってきて……驚いたでしょ?」



ごめんね、と苦笑する霧谷くんに、さっきのごめんはこのことだったんだな、と納得する。



霧谷くんのお母さん、綺麗な人だったなぁ……


明るい髪に黒い瞳。


なんとなく霧谷くんに、というよりは優くんに似てる気がする。


でもあの人がお母さん……お姉さんでも全然おかしくないと思う。



…………………。


いや、待って。


それよりも。


初めて霧谷くんのお母さんに会ったのに、あたしあんな格好で……


ものすごく失礼、だったよね?