「い……」

「……誰と?」

「え?」



どぎまぎしながら、聞き返す、と。

犬飼くんは、やっぱり真顔で。また、ゆっくり、口を開いた。



「『誰か』って、誰だよ」

「へ……」



キィ、と、パイプ椅子が鳴る。

ポケットに入れたままだった彼の右手が、カウンターの、わたしのすぐ目の前に置かれた。



「……すきなやつ、とか?」

「……ッ、」



あまりにも予想外な、その問いに。かあっと、また顔が熱くなる。

思わず、うろうろ、視線をさまよわせてしまって。

だけど犬飼くんにまた視線を戻すと、やっぱり彼は、じっとわたしのことを見下ろしている。



「………」



しばらく無言で、だけど頭はフル回転で、いろいろ考えてた、けれど。

きゅっと、ひざの上の両手を握りしめてから。わたしは意を決して、彼を見上げる。

窓から入ってきた風が、また、髪を揺らした。