「犬飼くんって、やっぱりおうちでわんちゃん飼ってるの?」

「……馬鹿にしてる?」



静かな、放課後の図書室。図書委員が駐在するカウンターで、低い声とともにきろり、となりから鋭い目付きを向けられるけれど、全然こわくはない。

わたしはにっこり笑みを返して、カウンターの上の本を閉じた。



「だってやっぱり、1度はみんな訊いてみたい質問だと思うの。馬鹿にはしてないよ」

「……じゃあ三宅は、家で三毛猫でも飼ってるわけ」

「え、それって、わたしのあだ名が『ミケ』だから? でも実際わたしの名字って『ミヤケ』だから、犬飼くん意外と無理やりこじつけてくるね?」

「………」



笑顔で話すわたしにやはり口では勝てないと思ったのか、結局彼はまた黙りこんだ。

そんな彼にふふ、と口元が緩んでしまうのを隠すように、無意味にすぐ横の窓の外へ顔を向ける。


わたしと犬飼くんは、同じ図書委員で。週に1度、放課後の図書室でこうしてふたりパイプ椅子に並んで座り、当番をしている。

実は去年の1年時も、わたしたちはクラスメイトで図書委員だった。だけどそれは、委員決めのホームルームで堂々と居眠りしていた彼が、まだ決まっていなかった図書委員に無理やりさせられたというだけの話で。

肝心の当番だって、最初の頃犬飼くんは、まったく来ていなかった。


まあそんなもんだよねって、わたしは諦めていたんだけど。それでも夏くらいから、急に彼は、なぜか欠かさず当番の放課後に来てくれるようになって。

そして、今年の4月。今度は自分から名乗り出て、またわたしと同じ、図書委員になってくれたのだ。