……すると。



「……あ。ねぇあれって、犬飼じゃない?」

「えっ」



友人のひとりの言葉に反応して、視線を走らせる。

そしてよくよく見てみると、ウグイスがいると思われる木の下に、ひとりの男子生徒が寝転んでいて。

どきりと、胸が高鳴った。



「うわ、ほんとだ。よくあんなとこで寝れるなー」

「そういや、5時間目いなかったよね。堂々とサボりか」

「………」



ふたりの会話を聞きながら、それでもわたしの視線は、男子生徒の姿に釘付けのまま。

友人たちはそんなわたしに気付いているのかいないのか、ぺちゃくちゃ背後で話を続けている。



「あたしさー、正直、犬飼苦手なんだよね」

「あ、あたしも。なんか怖いっていうか、超肉食動物系」

「でかいし、目付き悪いし、無口だしさー。男子はともかく、女子としゃべってんの見たことなくない?」

「うんうん。……あ、そういえばミケって、犬飼と委員会か何か一緒じゃなかった? 大丈夫? 意地悪とかされてない?」

「え、」



突然自分に話を振られて、少しだけ驚きながら振り向く。

わたしは少しだけ考えてから、犬飼くんに顔を戻して。

ふふっと、小さく笑った。



「……そんなこと、ないよー」

「ええー? なにそれっ」

「なんかあんのー?」



絡んでくる友人たちの言葉には何も返さず、こっそり心の中で、視線の先の犬飼くんに話し掛ける。

彼はようやく目を覚ましたらしく、がばっとあわてたように上半身を起こしたところで。


犬飼くん犬飼くん。きみ、ひどい言われようですよ。

……わたしが、実は、きみのことをすきだって教えたら。

このふたりは、どんな反応をするのかな。