長いエスカレーターを登りきると、前から太い黒縁眼鏡をかけた真面目そうで気弱そうな人が来た。
俺はさっきも言ったが、この人が嫌いだ。
「やぁ君太くん。久しぶりですね」
世界中探しても、この人だけだ。
実の息子に敬語を使うのは。
「・・・何の用だよ」
「いえ。用はありませんが、話しかけました。
お母様のところに行くのですか?」
「そうだ。あの人が何の用か知っているか?」
「いえ、知りませんね。
ところで君太くん。お母様をあの人と言ってはいけませんよ?」
「俺があの人を何と呼ぼうがあんたに関係ねぇじゃねぇかよ。
いちいち命令するな」
「おや。そんなこと言って良いのですか?
君太くんが言ったことは、全てこの中に入っているのですよ?」


