布団の向こう。

 
くくくっ、と笑い声が聞こえてくる。

 
笑われてるよ……私…

 
 
そのとき、頭の上に、ぽんっと軽い振動。

 
 
ん……?

 
 
と思っていると、左耳のすごく近いところで声がした。



「別に襲ったりしねーから安心しろって」



含み笑いの、ボリューム押さえ気味の低い声。

 
じんわりと、薄めの布団を通して次第に温かくなってくる耳元に。

 
私のカラダは硬直する。



「おい、聞いてんのか?」



ますます固まる私のカラダ。



「まあ、とにかく仲良くやろーぜ。というわけで、俺はこれからバイトあるから出かける」



耳元でささやく声と気配が遠ざかると、足音がとなりの部屋に向って消えた。


 
どきどきどきどき……


 
私は固まったまま、薄っすらと聞こえてくる物音に耳を凝らすしかできなくて。

 
しばらくすると、足音がこっちに戻ってくる気配。


 
ふっ、と鼻先で笑う軽い音がして。



「まだ布団かぶってんの? じゃ、俺は行くぞ」



上から声が降ってきて。

 
 
 
…バタン。



 
玄関の閉まる音が部屋に響いた。



なに、私。

 
なんであんなヤツに緊張しちゃってるの?

 
な、情けない…


 
布団から顔を出して玄関へ顔をむければ。


微かに残る、シャンプーの香り。


 
私は唖然とその方向に目をむけていたけれど。
 
 
 
あ。

 
そういえば、私まだ…

 
アイツの名前もなんにも聞いてないじゃん!

 
同じ大学の先輩らしいということは分かったけど。



「………」

 

突然現れた見知らぬ男の存在に、ただただ呆気にとられたその夜。


 
しばらくぼんやりとしたまま、

 
なかなか眠れなかった。




 
――これから一ヶ月…



 
一体、私、どーなっちゃうの?!





続く……