店を出て。

 駅まで続く、夜の道。


 空には丸い月が浮かんでいて。

 透明な光の加減に、空気まで少し澄んで感じる。

 夏の夜にしてはまあまあ涼しくて。


 お店の明かりがひとつひとつ消えていくころ。

 駅の手前で通りかかった、ショーウィンドー。


 私が欲しくて凝視していたピアスのあった場所には、

 青い石のついた、別のピアスが飾られていて。

 ディスプレイも、すっかり夏らしくなっている。


「ここでよく見てたよね、唯衣。今つけてるピアスと同じヤツ」

「うん」

「ガラスにへばりついて」

「恥ずかしながら」

「しかしすごいよね、流川直人。唯衣の欲しいヤツ、ちゃんと買ってくるんだもん」

「…そうだね」


 プレゼントをくれたあの日。

 そういえば、飲むペースがつかめなくて、流川の買ってきたもの全部はいちゃったんだよな…

 思い出して苦笑する。


 緊張した顔で。

 私の耳につけてくれたピンクトルマリンのピアスは。

 ショーウィンドーのガラスに映る私の耳で、

 月明かりと街の明かりに照らされて、淡く光っていて。


「たぶん…いや絶対この店のだよね、それ」

「どうだろ。わかんないけどさ」


 言ってから。

 ふと、目に入った、ウィンドーの中の、左隅。


 宝石類と一緒に、ラッピング袋のオブジェも一緒にディスプレイされていて。

 白い箱に、淡いブルーのサテンのリボン。

 リボンの結び目のところに、シルバーのコイン型の止め具がついていて。


「あ… 同じだ」


 あの日。

 流川からもらった包みを開いたとき。

 目の前にあるラッピングされた箱と同じものがでてきた。

 
「え?」

「流川にもらったものと同じラッピングだ」

「マジ?」

「うん」

「やっぱり、この店で買ったんだ」

「…そうみたい」


 私の耳についているピアスは。

 似てるものとか、どこかの店の同じものとか、そういうんじゃなくて。

 
 本当に、この店のものだったんだ。