次の日。

 要くんのアパートから、まっすぐバイト先へ向かって。

 更衣室で、軽く麻紀に昨夜のことを報告した。


 麻紀は目を丸くして驚いていて。

 それでも。

 すぐに深刻な顔つきになった麻紀は、

 私のことを気づかって、夕飯に誘ってくれた。


 バイトが終わって。

 いつもの店で、いつものメニュー。

 麻紀の口元はやっぱりパスタソースがべっとり付いていて。


「ぷ」


 思わず笑ってしまう。

 辛いはずなのに。

 麻紀のこういうところに救われる。


「ちょっと唯衣。笑い事じゃないでしょ」

「だって、麻紀の顔。ソースべったりなんだもん。いつものことだけど」

「あのねぇ」


 グラスの水を一気に飲み干した麻紀は、

「これからどうすんの?」

 聞いて。


「ちょっと、考えるよ…」


 答える私。


「考えるってさ、」


 言葉を切った麻紀は。


「要くんのこと? 流川直人のこと?」


 真顔になって。


「流川直人、唯衣のためになぐられたようなもんでしょ? その凶暴な女に」

「凶暴って」

「すごい女ね。あたしも見習わないと」

「…いいよ。見習わなくて」


 あんたがそれ以上凶暴になったら、祐二くんマジ死にするよ…


「しかしさ、」

「うん?」

「流川直人って、イイヤツなんだね」

「え?」

「唯衣のことかばって。要くんのことも、言おうと思えば、いくらでも悪く言えたのにさ」


 感心するように言ってから、パスタをフォークにからんだ麻紀は、


「そんなヤツとさ、縁切ったままでいいわけ?」


 私の目を見ず、もくもくとフォークを口に運んでいる。

 すっとぼけた感じで。