「グラスが割れてたらもっと大騒ぎになってたな。まったく…サナエには参るよ」


 要くんの顔は。

 どこか優しくて。

 そんな表情を見ながら私は…

 少し、切なくなった。


「唯衣には黙っててくれって言ったんだ」

「え?」

「俺が女と会ってたってこと。帰ってきてるってこと」

「……」

「唯衣のこと、悲しませるのイヤだったし。…いや、それは言い訳か。知られたくなかったんだ。唯衣と…壊れるのがイヤで」

「……」

「そしたらさアイツ… 言えるわけねーだろって。唯衣のことわざわざ傷つけるようなこと言えねーって」

「……え…?」

「口から血ぃ流しながら言うんだよ、ちゃんと自分で話して答え出せってさ。もしくは絶対傷つけないように隠し通せって」

「…流川が?」

「うん。唯衣はお前のこと信じてバカみたいにちゃんと待ってるんだからってさ」

「…バカみたいにって…」


 ははっと笑って、要くんは少し伸びをした。

 それから私を見て、

「流川…唯衣のこと…」

「…え?」

「いや。流川のヤツ、この短期間でよく唯衣のことわかったなって感心したよ」

「……」

「ごめんな、いきなり男に部屋なんて貸して。一ヶ月の合宿なんてウソついて」

「……」

「女と…会ってたりして」

「……」

「ホントにごめん」

「……要くん」

「…ん?」

「私も…要くんのことだけ…責められないの」

「…うん」


 うなづいた要くんに、少し驚いて顔を上げる。


「要くん?」

「流川のこと、気になるんだろ?」

「…え?」

「その…少しはなにかあったろ? 流川と」

「…要くん」

「昨日唯衣のこと抱いたときにさ、少しな。そう思った」

「あ…」


 キスマーク…

 やっぱり、気づいてたんだ…