「そんで、アパートに戻ったの?」

「ああ」

「大変だったんだって? 店んなかで」

「ああ、まいったよ」

「でも良かったな、警察沙汰とかになんないでさ」

「まあな、アイツのほうが冷静になったからだろ」


 警察沙汰?

 …なんか、物騒な話題。


「で? バレなかったわけ? 彼女に」

「ん。聞いてこないし。アイツ、本当に言わなかったんだな。半分覚悟してたんだけど」

「へえ。で、どうすんだよ、今後」

「ああ…どうしようかな。唯衣は唯衣で可愛いんだよな」


 …え?

 唯衣?


「いいよな、モテるヤツは。二股じゃん」

「いや、そうしようと思ってそうなってるわけじゃねーし」

「でも同じことだろ。二人に会ってるわけだし」

「んー、まあな」


 この声…

 もしかして…


「いずれちゃんと言おうとは思ってんだよ。タイミングがつかめないっていうかさ。ほとんど一緒に住んじまってるし、いろいろ中のことやってくれるからさ。傷つけんのも可哀そうっていうか」

「まあな。でも、二股かけられてるって分かったときの方がショックだろ。早いほうがいいんじゃね?」

「ああ…そうだな」

「お前も大変だな、要」


 要……くん…?


「…な…に?」


 アイスティーを持つ手が微かに震えた。

 
「お前としてはどっちが本命なわけ?」

「わかんね。流されてるだけかもしんねーし、サナエのことは。唯衣は…普通に好きだけどな」

「決めらんねーってわけか。サナエもしつこそうだからな」

「うん」

「合宿帰ってきてから、一週間くらい拘束されてたんだろ」

「ああ。まいったな、それにも」

「ははは」

「笑い事じゃねーって」


 …なに?

 この会話…

 確かに…要くんの声で。

 
 自分の置かれてるこの状況がよく飲み込めない私。

 身を縮めて、グラスを握り締めるしかできなくて。