「それは、直接言うといい」

「会えるのですか?」

「勿論だ。新人の隊員は、誓いを立てる。しかし、今の状況で果してそれが可能かどうかはわからん」

「そう……ですか」

「何か問題か?」

「いえ、違います」

 シェラの悪い噂を知っているので、エイルは動揺を隠し切れずにいた。心を失った女王――彼女を目の前にして、果たして冷静に対応できるのだろうか。正直、不安の方が大きい。

 だからといって、ここまで来て弱音を吐くことはできない。弱音を吐いたら、親衛隊として王家を護ることができない。また、弱味を見せたら終わりの世界ということも知っている。

「わかりました。全ては、国の繁栄の為に――」

「期待している」

 息子の力強い誓いに、フレイは満足そうに頷く。決意が鈍っては、親衛隊として邪魔になってしまう。それにエイルは代々親衛隊を排出している一族の者なので、何事も最初が肝心で気を引き締めないといけない。

 フレイは言動として表面に出さないが、内心ではエイルが上手く親衛隊の一員として溶け込めるか危惧していた。だからこそ厳しい言葉を言い続け、エイルに葉っぱを掛ける。父親の心情を理解しているエイルは一言返事を返すと、一族の名前に泥を塗ってはいけないと改めて思う。

 再度聞いた息子の決意に、フレイはこれ以上の話はないという。父親の言葉に低音の声音で返事を返すと踵を返し、部屋から退出する。それと同時に、視界の中に兄のイルーズの姿が映り込んだ。懐かしい兄の姿に、エイルの表情が緩んでいく。そして、軽い頭を垂れていた。

「お帰り」

「はい」

「無事で良かった」

「アルフレッドがいましたので」

「二人の場合は、敬語はいい」

「そうだった」

 本来、イルーズは堅苦しい会話を好まない。特に、兄弟の間で敬語を使われると気分的にいいものではないので、二人の時は敬語を用いず普通に話すように言われていたが、エイルはそれを忘れてしまっていた。兄の言葉エイルは無言で頷くと、今まで使用していた敬語を止めた。