大地に降り積もっていた雪が溶け、メルダースは春の陽気に包まれていた。
木々は新芽を芽吹かせ、花々は美しい色彩の花弁を大きく開かせる。
眠りについていた生き物達は目覚め、黄緑色の草の上を駆け回っていた。
無論、春の訪れを喜んでいるのは人間も同じ。
寒い時期の授業は堪え、集中できない。
その為、冬の時期に成績を落とす生徒が多いという。
だからこそ、春という季節は人々を喜ばす。
だが春の訪れは、いらぬ物を招くことがある。
そう、それは忘れ去られていた物。
昨年の秋に捨てられ、その後は冬眠についた。
そして、目覚めの時を待つ。
人々は、それを知らない。だが、それは目覚めた。
ことのはじまりは突然に。
学園中に響く悲鳴も、それに関係していた。
突如響いた悲鳴に、エイルは寝台から飛び起きる。
そして何かを確かめるように周囲に視線を走らせると、再び悲鳴が響き渡った。
その声音は、聞き覚えがある。
そう、庭師のハリスの声だ。
エイルは寝台から下りると、窓を開き声がした方向を見る。
すると、隣の窓から顔を覗かせていた生徒と視線があった。
どうやらハリスの悲鳴に、多くの生徒が起きてしまったようだ。
「な、何が起こった」
「あの声は、ハリス爺ちゃん。ハリス爺ちゃんは滅多のことで、悲鳴を上げないからね……」
腕を組み首を傾げるエイルに、今度は下から声がかけられた。
その声にエイルは視線を落とすと、その生徒が話す内容に聞き入る。
この生徒曰く「天変地異が起こった」ということだ。
ハリスが驚くことといったら、植物に関することだろう。
その妙に説得力がある内容に、エイルを含め窓から顔を覗かせていた生徒達が全員頷く。
そして、ひとつの結論が出された。
植物に異変が起こった。
暫しの沈黙が走る。
すると全員がひとつの結論を導き出したのだろう、どの部屋からもドタバタという音が聞こえてきた。
そして制服に着替え終わった生徒達は、これまた一斉に扉を開く。
廊下に出た者達は互いの顔を見合すと、合図を送るように頷く。
そして、目指す場所はひとつ。