蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


その頃、藍は佐藤家の客間に居た。


入浴後。


しばらくは、君恵と美奈と三人でテレビを見ながら楽しくおしゃべりをして過ごしたが、さすがに11時を回った頃には疲れが出てきてお開きになり、皆、床についたのだ。


でも布団に入っても、藍は、なかなか寝付かれないでいた。


始めての『お泊まり』なこともある。


でも、寝付かれない一番の原因は、入浴の時に美奈から聞いた『拓郎の過去』が、ショックだったことにある。


「同情して欲しくて、話すんじゃないのよ。ただ、私は藍ちゃんが好きだから、上辺だけじゃなく、拓郎という人間のことを良く知って貰いたいの」


美奈は、最後にそう言った。


口調は普段と同じだったが、美奈の目は真っ直ぐで真剣なものだった。


『両親の事故死』


『保険目当ての親戚』


『たらい回し』


色々な言葉が浮かんでは消えて、幼い少年が辿ってきた道程を思うと、胸の奥が痛んだ。