蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


他愛無い世間話に花を咲かせた後、「外の空気に当たりたい」という麗香に誘われて、拓郎は黒谷邸のリビングからベランダに場所を移した。


12月も終わり。それもクリスマスと来ている。


高台に建っている屋敷の二階のベランダから望む街の灯りは、いつもよりも五割り増し程華やかだ。


夜を渡る外の空気は肌に刺さるように冷たいが、アルコールで火照った身体には心地よく感じる。


だが、さすがに麗香のチャイナドレス姿では、見ている方が寒い。


「寒くないですか?」


「平気よ――、と若いフリしてみたい所だけど、やっぱりちょっと寒いかな」


肩をすくめて舌をぺろりと出してみせる麗香の少女めいた仕草に苦笑しつつ、拓郎は「はい、どうぞ」と自分のスーツの上着を脱いでその肩に掛けてやる。


「ありがとう。それにしても……」


「はい?」


「あなたのスーツ姿って、始めて見たわね」


麗香は微かに口元を綻ばせて、昔を懐かしむような眼差しを向けた。


「そう……でしたか?」


「ええ、始めてよ」


拓郎は滅多に着ない一張羅のダークグレーのスーツに視線を這わせて、記憶の糸を辿った。