そう言う麗香のマンションも、自分から見ればかなりご立派だったことを思い出したのだ。
この人は、今もあのマンションに住んでいるのだろうか。
そんな感傷めいた思いを抱きながら麗香の視線を追って、改めてパーティ会場になっている黒谷邸のリビングを見回す。
40畳ほどもある広々とし空間に絶妙に配置された、洗練されたイタリアン家具。
床は、総大理石張りで勿論床暖房付きだ。
中央に配置されているメインのソファセットだけでも、大人がゆったりと10人は座れる。
その他にも、普通サイズのソファセットが二つあり、その一つに拓郎は座っていた。
代わる代わる酒を継ぎにくる先輩連中も今は、メインソファの方に居る黒谷を囲んで余興のゲームを始めたようだ。
と言っても王様ゲームなどの宴会ゲームの類ではなく、黒谷の趣味であるチェス大会が始まったのだ。
将棋やオセロならともかく、チェスのルールも知らない拓郎には、有り難いことにお鉢は回ってこないのだ。
毎年、この隙に、料理を堪能させて貰うのがいつものパターンだった。
「ワインで良いですか? シャンペンもビールも熱燗もお冷やもありますけど」
テーブルに広げられた色とりどりのグラスと酒瓶をまじまじと見詰めて、麗香はおかしそうにクスクスと声を上げて笑い出した。
「ワインを頂こうかな」
「ワインですね。了解」
もう何年も会っていないはずの麗香のその微笑みは、拓郎には昔と何も変わりがなく艶やかで美しく見えた。



