蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


冬の朝の、澄んだ空気が心地よい。


藍は、寝室の開け放した南向きのベランダの窓から外を見渡すと、一つ大きく深呼吸をした。


午前八時。


路地奥にあるこのアパートの周りにも、朝の活気が溢れていた。


ジョギングをする中年の男性。


のんびりと、犬の散歩をする主婦らしき人。


足早に学校へ急ぐ学生の群れ。


穏やかで、そして当たり前の風景。


その全てが藍には新鮮だった。


――何をしようか? 


と思案の結果、まずは家主さんへの恩返しの気持ちを込めて、部屋の掃除をすることにした。


元々そんなに散らかっている訳ではなないが、やはりそこは男の一人暮らしの部屋で、『隅の方に埃がこんもり』としているのを見つけたのだ。