蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


嫌な予感が拓郎の胸を掠める。


拓郎は眉を顰めながらベットから立ち上がると、襖を開けて隣のLDKを覗いた。


――片づいている。


昨夜、二人で藍の誕生祝いをして、食器類が散らかったままだったコタツの天板の上も、流し台の中もキレイに片づけられていた。


まるで、初めから誕生祝いなどしなかったかのように整然とした室内に、意味もなく、ドキンと鼓動が跳ねる。


「藍、居るのか?」


微かな期待を込めてノックしたトイレ、ユニットバスにも居ない。


――今日は、ゴミ出しの日じゃないよな……。


大家さんの所にでも行っているのだろうか? 


でも、こんな朝早くに行く理由がない。


行く当てなど、無いはずだ。


普通なら、『コンビニに買い物を』とでも考える所だが、何というか、藍にそれはあり得なかった。


藍は、一人で外出することはまずなかったのだ。


拓郎と暮らすようになるまでは、一人で買い物もしたことがないと言っていた。


最初は、『どんな深窓のご令嬢か』と思ったものだが、からかい半分に尋ねても、『そんなんじゃないのよ』と笑うばかりで、その理由は教えてはくれなかった。


拓郎も、気になりながらも無理に聞き出すことはなく、今まで過ごして来てしまっていた。


「どこに、行ったんだ?」


ゆっくりと、自分以外の人の気配の消えた狭い室内に視線を巡らせる。