「……はいはい、起きますよ。お勤めご苦労さん」
しょうもない事を呟きながら布団の中から手を伸ばして、愛用の目覚ましをポンと止めると、のろのろと体を起こしてベットサイドに腰かける。
寝癖の付いたちょっと伸びすぎた感のある硬い前髪を、手グシでワシワシと掻き上げるが、もともと低血圧気味の脳細胞は、まだ半分熟睡モードのままだ。
ふう――と溜息を付いて、頭を軽く振る。
男の名前は、芝崎拓郎(しばさき たくろう)
二十七歳。
一見『TV子供番組の優しいお兄さん』と言ったひょろっとした風貌で、実年齢よりかなり若く見える。
つまりが『童顔』なのである。
職業は、一応フリーのカメラマンをしているが、『売れないカメラマン』と言うのが実状だった。
ライフワークの風景写真を撮る傍ら、出版社から雑誌の仕事を貰って、食いつないでいる。
何せ、気楽な天涯孤独の身。
養わなけりゃならない親や家族が居るわけでもない。
別に極貧だろうが、好きな写真が撮れてその日を食いつないで行ければ、それで不都合を感じたことはなかった。
そう、今までは―― 。



