「まあ、ふてぶてしい顔はしてるけどな」
ほら。と、地面に放された猫は「ブミャウッ!」と一鳴きして、再び藍の膝の上に飛び乗ってしまった。
再び瞬間冷凍状態に固まる藍の方を向いて、気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。
「どうやら、気に入られちゃったみたいだね。嫌じゃなかったら頭を撫でてごらん。喜ぶよ」
拓郎に言われ、藍は、怖々と言った様子で猫の頭に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、微かにビクついたが、危険がないと分かるとそっと撫で始める。
すると途端に、猫が喉を鳴らす音が倍の大きさに変わった。
『ぐるぐるぐるにゃん♪』
まるで、節を付けてハミングしているように聞こえる。
藍の表情が、見る間に明るいものに変わっていく。
まるで、宝箱を発見した幼い少女のように、キラキラと瞳を輝かせている。
――分かり易い娘だな。
拓郎の口の端が、思わず上がる。



