「お前、良く肥えてるなー」
がしがしと猫の頭を撫でながら笑いかけると、藍は、はーっと安堵の溜息を漏らして、やっと全身の力を抜いた。
いったい何分間『だるまさんが転んだ状態』だったのか。
余程、緊張していたのだろう。浮かべた笑顔が、まだ引きつっている。
「もしかして、猫、苦手だったりする?」
「苦手じゃないですけど、触ったことがないんです。だから……」
「怖いんだ?」
「はい……」
藍は、さも怖そうにコクンと頷く。
確かに、普段動物に触り慣れていない人間には、このジャンボ猫は迫力がありすぎるかもしれない。
まあ、膝に飛び乗ってくるような猫は人に慣れているから、余程の事が無い限り、噛みついたりはしないだろうが。
「お前、怖いんだってよ」
笑いながら拓郎が顔を近づけると、猫は『大きなお世話だよ』と言わんばかりに、澄んだ青い瞳でぎろりと拓郎を睨み上げた。



