「藍(あい)、ちゃん?」
昨夜、『ちゃん付け』『さん付け』で呼ぶのは止めようと二人で決めたのだが、今までの癖で思わず『ちゃん付け』で呼んでしまって、ちょっと苦笑する。
実を言えば、男の方が言い出しっぺなのだ。
当分、気を付けないと、この癖は抜けそうもない。
それにしても、もう、起きたのか?
いつもよりも大分早起きだ。
今日は朝が早いと言ったから、先に起きてくれたのだろうか?
「藍?」
少し大きな声で呼んでみる。
でも、やはり答えは返ってこない。
さすがに幾らか頭に血が巡ってきた男は、ベットの上に半身を起こして、藍の姿を求めて部屋の中に視線を走らせた。
藍が好きだと言う、淡い黄色のファブリックで纏められた室内には、人の気配はない。
その時、出番とばかりに、けたたましいアラーム音が狭い部屋の隅々に響き渡った。



