「特に、異常は見られないな。……って、何を睨んでいるんだ?」
観察を終えて身体を放した柏木を、藍は疑惑の眼で見上げた。
「先生、今のわざとでしょ?」
「何が、わざと?」
柏木は、クスリと口の端を上げる。
この笑顔は、絶対わざとやっている、と藍は確信した。
発作に気を付けろって言っている本人が、一番患者をドキドキさせてどうするんだか。
「……別に」
後で、仕返ししてやるんだから、覚えてらっしゃいよ、先生。
心でそう誓って、藍はそのまま静かに瞳を閉じた。
『二週間で全てを終えよ』
祖父の厳しい言葉が、脳裏に浮かぶ。
「お祖父様は……」
心電図のモニターを見ている柏木の横顔に、そう言いかけて止める。
「どうした?」
柏木は、怪訝そうに眉を寄せる。
「ううん、何でもない」
そう言うと、藍は再び静かに目を閉じた。



