蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


「私は、十七歳です」


「へぇ十七歳かぁ。じゃあ、高校二年生くらいかな?」


何気ない問いに、藍の表情がすっと硬くなる。


「いえ……、高校生じゃないです。学校には行っていません」


――まずい質問だったかな?


拓郎は内心、焦った。


別段、身上調査をするつもりも、その必要もないのだ。


端的に言ってしまえば、とにかく写真を撮らせて貰えれば、それでいいのだ。気を悪くさせては元も子も無い。


ただ、写真を撮らせて貰う以上、自分の身元は伝えておかなくてはならない。


このまま、一回こっきりのモデルで終わるか、次の機会に恵まれるか今の段階では分からないが、職業カメラマンが例えアルバイトでもモデルとして仕事を依頼する以上、名無しの権兵衛さんのままでは世の中通らない。


というか、拓郎の気持ちがすまないのだ。


個人的な事はかなり鷹揚な男なのだが、こと仕事に関しては、きっちりしておきたい性分なのだ。


「あ、これ、俺の連絡先です。あの、君の連絡先を聞いてもいいかな? 出来た写真を送りたいしね」


財布の中に一枚だけ入れてあった名刺を藍に手渡して、恐らく返事はNOだろうと思いつつ、ダメモトで聞いてみる。


「すみません……」


案の定、藍はそう言うと、すまなそうにうつむいた。