蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


「じゃ、改めて自己紹介を。俺は、芝崎拓郎。フリーのカメラマンをしています」


「私は……」


少し言い淀みながら、少女は自分の名を告げた。


「私は、大沼 藍(おおぬま あい)です」


ペコリと頭を下げる。


「『あいちゃん』か。あいは、愛するのあい?」


「いいえ。色の、藍色のあいです」


「へぇ。藍染めの藍だね」


「はい」


植物の藍で染めた濃い青色のことを『藍色』というが、なるほどこの少女にはぴったりの名前かもしれない。


どこか謎めいた透明な深い青。


そんな映像イメージが浮かぶ。


「綺麗な名前だね」


「ありがとうございます」


「あ、俺、こう見えても、二十七なんです。良く学生に見られるけど。ほら、見ての通り童顔だから」


その言葉に、少女、藍(あい)が驚いたように目を見開いた。ただでさえ大きな瞳が、更に大きく見える。


無理もない。


フリーのカメラマンなんてやくざ人種は、概(おおむ)ね若く見られがちだが、拓郎は特にその傾向が強くて、『二十七なんです』と言って信じて貰えた試しがなかった。


それを自分でも十分自覚している。


拓郎は、『ははは』と苦笑いをして頭をかいた。