「こんちくしょっ!」
拓郎は、愛車のカローラのバンパーを、思いっきり蹴飛ばした。
罪も無いのに理不尽に蹴飛ばされた愛車は何も言わなかったが、拓郎の右足が不平をならした。
自業自得である。
「っ痛て……」
拓郎は、ジィンと痺れの走る右足を振りながら、周囲に視線を巡らせる。
そこに広がるのは、見渡す限りの一面の緑。
黄緑から始まり、若草色、若葉色、緑、青緑に萌葱色。
様々なトーンの緑の色彩が乱舞している。
所々、ピンクの可憐な色で華やぎを添えているのは、自生する山桜の花だろう。
天気も空気も、眺めも最高。
だが、気分は、最低だ。
4月の青空の下。
青木ヶ原もまっ青な鬱蒼とした原生林に囲まれた狭い山道で、立ち往生した愛車を、拓郎は盛大なため息を吐き出しながら見やった。



