「だから、そう言うところが、子供なんだよ」
その反応を分かっていて仕掛ける柏木も確信犯なので、年齢を鑑ると『子供っぽい』ことに関しては大きいことは言えないのだが。
暫く、藍の消えたドアに愉快気に視線を送っいた柏木の目が、すっと影を帯びた。
「いや。……そうだな、もう子供じゃないな……」
もう、自分の生き方を決められる位に、大人になったんだからな。
出会ったのは、十三年前。
ほんの五才の、小さな女の子だった。
どちらかと言えば、娘と言っていい程年齢差のある自分が、こうも惹かれることが、柏木には不思議だった。
「会長にバレたら、殺されるな」
今から自分達が行おうとしていることは、どちらかと言うと『賭』だ。
結果は、藍しか知ることが出来ない、未知数の賭。
それを止めるべき立場に居る自分が、その首謀者だと知られたら、研究所を解雇されるくらいでは済むまい。
それでも、自分は、あの少女には逆らえない。
その願いを、断ち切ってしまうことは出来ないのだ。
「こう言うのは、なんて言ったかな? ミイラ取りがミイラになる?」
ああ、そうか『恋は盲目』か――。
柏木は自嘲気味に笑うと、中断された作業に戻って行った。



