蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


「いや、違うな。単に君が撮りたいんだ。この風景を撮りたかったように、君の写真が撮りたいんだ」


拓郎は、真っ直ぐと少女の目を見て話す。その心の内にやましさは微塵も無い。


その言葉通り、ただこの少女の写真を取りたかった。


それが伝わったのか否か。


拓郎の言葉にじっと耳を傾けていた少女が、その真意を量るかのように、真っ直ぐな視線を拓郎に向ける。


邪(よこしま)な考えを持つ者は決して直視できないだろう、邪気のない視線。


それを拓郎は、目を逸らさずに受け止めた。


「一日だけでもいいのなら……、お引き受けします。でも、公の場に写真が公表されるのは困ります。それだけ約束して下さい」


まだ迷いが有るように、揺れる少女の瞳。


それでも、目をそらさずに話す真摯な態度に、拓郎は少なからず感銘を受けた。


――今時には、珍しい娘だな。


今時の子供、特にこの少女くらいの世代は、話していても滅多に視線が合わない。視線を合わせようとすると、するすると逃げられてしまって、下手をすると携帯電話の画面を見ていたりする。


人と人、一対一で心を割って話し合うと言う環境に置かれることが少ないのが原因なのかも知れない。


最近、アルバイトで高校生を撮る仕事がたまたまあったのだが、その高校生達が隣にいる友達に話しかけるのに、携帯メールを使う場面を目撃したときは、さすがの拓郎もカルチャー・ショックを受けたものだ。


外見には似合わず、以外と古くさい価値観を有する拓郎は、『人と話をするときは、相手の目を見なさい』と言う、小学校以来の教えを、忠実に実践していた。


それもあって、驚きは大きかった。