ちなみに、酒が滅法弱いと言うダンナ様は、早々と撃沈して美奈の傍らで夢の中の住人になっている。
「美奈さん、藍が、身体が弱いって感じたことありましたか?」
拓郎は、ずっと心の底に引っかかっていた事を、美奈に質問してみた。
日翔の受付嬢も藍の祖父の日翔源一郎も、『そう』言っていたのだが、拓郎にはイマイチそれが藍と結びつかないのだ。
「え? 藍ちゃんが、身体が弱いって?」
美奈も、意外そうに目を丸めて首を傾げた。
「ええ」
「クリスマスの時、誰かさんが風邪を引き込んで半死半生の時も、ケロッとしていた藍ちゃんが?」
そうなのだ。
あの時も、拓郎は高熱を発して寝込んでしまったのに、同じ条件で夜明かしした藍は、くしゃみをする程度で済んでしまったのだ。
特に食べ物の好き嫌いもなく食も良かったし、掃除や洗濯など、実に細々マメに動き回っていた。
確かに、メンタル面では、夢にうなされる事が続いて不安定だったことはあったが、それも日常生活に支障が出るようなほどでは無かった筈だ。
拓郎が知っている『藍』と、『病弱なお嬢様』。
どうにも結びつかない。
「ねえ、拓郎。あんたはよく分かっていると思うけど、物事ってのは、うまく行かないことの方が多いんだから、あまり根を詰めないことよ。果報は寝て待てってね」
考え込んでしまった拓郎に、美奈が、飲めとばかりに酒を勧める。
「そうですね」
美奈の言う通り、焦ってみても始まらない。
今は、恭一の捜索が功を奏するのを待つことが、最善の策だろう。
その先は、またその時考えればいい。



