蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


夜も11時を回った頃、拓郎と美奈の酒盛りには、仕事から帰った美奈の夫の貴之が加わった。


「はいこれ、お義母さんから、おつまみの差し入れです」


と、貴之が持参した、タッパーに詰め込まれた筑前煮とエビチリが追加され、思いがけず、芝崎家の食卓は久々に賑わいを見せた。


美奈がペロリと暴露した情報によると、実は『酒盛り』は口実で、藍が居なくなってめっきり顔を出さなくなった拓郎を心配した君恵が、美奈に様子を見に行くように頼んだと言うのが、事の真相だった。


貴之が合流するのも、初めからの予定だったようだ。


何にせよ、こうして自分を心配してくれる人たちが居るというのは、幸せなことには違いない。


これで、藍が居れば言うことは無いんだが――。


我ながら救いようがないと呆れてしまうが、ふと気付くと、思考が全部藍へと繋がってしまう。


恋の病ってやつは、こんなに厄介な物だったのか。


「それにしても、藍ちゃん、何処にいるんだろうねぇ……」


大分呑んでいる筈だが、酒豪の部類に入る姉御は大して酔った様子もなく、おつまみのスルメを囓りながらポツリと呟いた。