恐らく、自宅の窓から拓郎の車が戻ってきたのを見計らって来たはずなので、待ちくたびれてはいないと思ったが、酒盛りの用意をして待っていてくれたのは事実なのだろう。
拓郎は苦笑しつつも、姉御の命に従って部屋の鍵を開けた。
「寒かったら、コタツを付けて下さい。俺は、着替えてきますから」
「はいはい、了解了解、って今日はずいぶん珍しい格好してるわね? 売れない写真家は諦めて、就職活動でもして来たの?」
奥の寝室に消える拓郎の背に、厳しい姉御のお言葉が飛んでくる。
普段の拓郎は、動きやすいラフな格好が定番なので、ビジネスマン宜しく全身カッチリスーツで固めるなんて言うのは珍しいのだ。
藤田にも、『馬子にも衣装だな』と笑われたばかりだ。
「……まあ、臨時のアルバイトってとこですよ」
「ふうん、馬子にも衣装だねぇ」
しみじみ響く美奈の声に、拓郎は思わず口の端を上げて苦笑した。



