蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


――世の中、そうそう、思うようには行かないらしい。


結局、恭一の調べでも、拓郎が期待したような、はかばかしい結果は得られなかった。


都市部からあるていど離れた日翔に関連する病院、保養所、ホテルなどの長期宿泊が可能な施設で『空気が良く』尚かつ『雪が降らない』、この条件に該当する場所が多すぎるのだ。


日翔の関連施設は、直営の他系列も含めれば日本全国に数百単位で存在する。


それに、拓郎は視野に入れていなかったが、海外にも数多く存在するのだ。


いくら有能な電脳探偵でも、一朝一夕で、そこに『藍』が居るのかどうか調べ上げるのは困難だった。


最初に藍の身元がすぐに分かったことの方がラッキーで、希有な例だったのだと拓郎は思い知った。


「何か情報が出てきたらすぐに連絡しますから、がっかりしないで下さい。情報は生き物です。常に新しく生まれて来るんですからね」


電話口で落胆する拓郎に、恭一はそう言って励ましの言葉を掛けてくれたが、今までの努力が水泡に帰してしまったのだ。


リストに上がった場所を、拓郎自らが一つ一つ調べていくなどと言うのは、事実上不可能だ。


拓郎にも生活があり、そのためには働かなくてはならない。


その合間を縫っての作業では、藍に行き着くのは何年先になるのか。


そもそも、大前提そのものが間違っている可能性だってあるのだ。


次に打つ手も考えつかないこの現状では、落胆するなと言う方が無理な注文だった。