蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


拓郎が、ヘマをやらかせば、藤田を始め協力してくれたその友人にも迷惑が掛かるのだ。


「本日は、貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました。お陰で良い記事が書けそうです」


「楽しみにしておるよ」


立ち上がった老人に、拓郎はもう一度軽く頭を下げ、きびすを返してその場所を後にした。


『空気の良いところで療養』


恐らく、あの源一郎の言葉に、真実が含まれているはずだ。


人間、不意の質問に対して、そうそう完璧な嘘を付ける物ではない。


拓郎は日翔の本社ビルを出ると、再び恭一に調査依頼の電話をした。


「はい、そうです。日翔に関連する病院、保養所、ホテルのどの長期宿泊が可能な施設です。ええ、都市部からあるていど離れた『空気が良い所』です」


「それと……」


藍は、『雪が降るのを始めて見た』と言っていた。


「冬に、雪が降らない所を探して下さい」


拓郎が電話で尋ねた時、日翔家のお手伝いの女性は、もともと藍があの家に『住んでいない』と確かに言った。


もしも、もとの場所に連れ戻されて居るなら、これで、きっと藍の居所が割り出せるはずだ。


拓郎は、祈るような気持ちで恭一からの連絡を待った。