「そうですね、もう、こんな時間ですね。興味深いお話しばかりで、時が経つのも忘れてしまいました」
拓郎は、ニコニコとソファから腰を上げつつ、ここぞとばかりに言葉を続ける。
あくまでも、さりげなく。
不意に思いついたように。
「ああ、そう言えば、可愛いお孫さんがおいでとの噂を耳にしたんですが……」
なるべくさり気なく口にしたのだが、一瞬で、表面上は和やかだった場の空気は変わってしまった。
源一郎の表情は笑顔のまま、変わらない。
だが、その眼光は明らかに鋭さを増している。
ピリピリと張り詰める空気が、拓郎の全身を包み込む。
――やはり、藍の話はタブーなのか。
源一郎の傍らに立っているカマキリ秘書の顔が面白いように青ざめて行くのを、拓郎は苦い思いで見詰めていた。
それでも、ここで諦める訳にはいかない。
拓郎は内心の動揺を表には微塵も出さず、ニコニコとした表情のまま言葉を続ける。



