蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


チン。


目的階に着いたことを知らせるベル音に、拓郎は、気持ちを引き締める。


「どうぞ、こちらです」


案内嬢の後を『お登りさん』よろしく、きょろきょろ視線を巡らせながら付いていく。


普通のオフィスの廊下の倍は広そうな、白い大理石張りの床に硬い足音が響き渡る。


――最上階が会長室になっているのか。


俺の安アパートとは偉い違いだな……。


拓郎は、廊下の窓に広がるミニチュアのような都会の街並みを、複雑な気持ちで眺めた。


日翔グループは巨大だ。


『揺りかごから墓場まで』では無いが、傘下の企業は多種多様で、政界へのパイプも太いと言われている。


総理大臣が日本の長なら、日翔グループは日本の財布持ち。いわば経済を牛耳っていると言っても過言ではない。


その王国を一代で築き上げた人物、日翔グループ会長・日翔源一郎。


―― 一筋縄では、行かないだろうな……。


拓郎は、そう思わざるを得なかった。