程なく確認が取れた為、受付嬢の一人に案内されて、エレベーターで上に向かう。
拓郎は、上昇し始めたエレベータの中、『60F』を目指して点灯していくパネルの数字を目で追いながら、受付嬢に話し掛けた。
「日掛会長は、気難しい方だと聞いていて、緊張しているんですよ」
と、引きつり気味の笑顔を浮かべると、受付嬢は、クスクスと笑い出した。
「ご心配いりませんよ。日掛会長はとても気さくで、お話しし易い方ですから」
頼りない拓郎の様子が気の毒になったのか、受付嬢がそう言って、営業スマイルではない素の笑顔を浮かべた。
取材は本当の事なので嘘では無いが、やはり心の奥がチクリと痛む。
こんな嘘でも心が痛むのだ。
藍もやはり、同じように心を痛めていたのだろうか――。



