蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


公園近くにある24時間営業のファミリー・レストランは、朝早いこともあってか、客が一人もいなかった。

 
ゆったりとしたBGMが流れる店内は、暖房が効いていて、冷えた体を温めてくれる。


BGMと、暖かい部屋と温かい飲み物。


誰かを説得するには、おあつらえ向きの環境だ。


あとは、心でぶつかるのみ。


拓郎は店の入り口近く、窓際の四人掛けのテーブルに少女と向かい合って座ると飲み物をオーダーし、いそいそと自分のデイ・バックから写真を取り出した。


まずは、自分が危ないナンパ野郎ではなく、職業カメラマンであることを信じて貰うのが先決だ。


それには、自分が撮った写真を見せるのが一番手っ取り早い。


「普段は、こういう写真を撮っているんだ」


ちょっと照れつつ、一枚一枚テーブルの上に広げて、少女に見せて行く。


道ばたの小さな野の花。


海に沈む夕陽。


薄紫に浮かぶ街並。


それは特別な場所ではなく、何処にでもある風景だ。


でも素朴だからこそ温かい、見る者に、どこか懐かしさを感じさせる優しい風景――。


「綺麗……」


興味津々といった様子で写真を見詰めていた少女の口から、ポロリと感嘆の声がこぼれ落ちた。