「まあ、名前や年齢を誤魔化しても、誕生日を誤魔化す人間は余り居ないでしょうから、誕生日と名字と名前の組み合わせで十代半ばから二十代前半の女性から絞り込んで行きましょう。顔写真があるので、家出人捜索願いが出ていれば話は早いと思いますけど――」
「はい……」
確かに、初めて名前を聞いたとき、藍は名乗るのを躊躇していた。
出会ったとき、こんなに深く関わり合いになるとは互いに思っても居なかったし、理由は色々あるのだろう。
だが、嘘は嘘だ。
最初から『嘘』をつかれていたことになる。
藍が名前を偽っていたのが事実だとしたら、こんなショックなことはない。
漫画やアニメなら、頭の上に『がーん!』と言う文字が飛び交うはずだ。
平たく言って、拓郎はかなりへこんでいた。
「と言うことで、芝崎さん」
そんな拓郎の心の内を知ってか知らずか、恭一は微かな笑みをその秀麗な口元にたたえながら言葉を続ける。
「え、あ、はい?」
「時間が掛かると思いますから、一度お引き取り頂いた方がいいですね。結果が出たら、すぐに連絡を差し上げますから」
ニッコリ。
例の、非の打ち所のない営業スマイルででそう促され、拓郎は「はい」と頷くしかなかった。



