蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


瀬谷恭一はパソコンに向かい始めて30分ほどで、早々と藍の捜索は『手間取るパターン』だと判断を下してしまった。


「詳しい情報源は企業秘密なので説明を省きますが、結果から言って『大沼藍』さんと言う18歳の該当女性は、少なくとも日本には存在しませんね」


パソコンの画面に忙しなく視線を走らせながら、恭一が感情を排した冷静な声音で事実のみを伝える。


「え? 居ないって……」


部屋の隅。


恭一の斜め後方壁際に置かれている椅子に座り、まんじりともせずにその作業を見守っていた拓郎は、思いがけない言葉に腰を浮かしかける。


作業途中のモニター画面を見られたくないのか、恭一は、立ち上がろうとする拓郎を右手を少し上げて『座って』とばかりに制した。


訝しげに眉をしかめる拓郎にちらりと視線を走らせて、恭一が静かに口を開く。


「彼女は、日本の戸籍には登録されていないと言うことです」


ってことは、つまり――。


「彼女の名前は、恐らく偽名でしょう」


「偽名……」


藍が、名前を偽っていた?