「分かりました。では、仕事にかかりますので、椅子にかけてお待ち下さい。生憎アシスタントが休んでいますので、お茶はセルフサービスでどうぞ」
ニッコリ。
完璧な営業スマイルを拓郎に向けた恭一の表情が、何台も並んでいるデスクトップ・パソコンの一つの前に座った次の瞬間、ガラリと豹変した。
鋭利な眼差しは、獲物を狩る肉食獣のように甘さの欠片もない。
これが、さっきと同じ人物なのか――。
拓郎は以前、ある事件を介してここを紹介してくれた藤田の『本気モード』を目にしたことがあって、そのグリズリーさながらの迫力に、『この人を怒らせるのはやめよう』と心密かに誓ったものだ。
この探偵には、その時に感じた衝撃に通ずるものがある気がする。
なるほど。
類は友を呼ぶ、ってやつだな。
拓郎は妙に納得しながら期待を込めて、まるでピアニストのような優雅な指さばきで作業を始めた恭一の一挙手一投足を、固唾を呑んで見守った。



