蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


「あの……」


頭を下げたまま動こうとしない拓郎を見詰つめる少女の口から、困惑気な呟きがもれた。


その声音には、明らかに迷いの成分が含まれている。


「お願いします!」


だめ押しとばかりに、拓郎はそのまま声を重ねた。


じりじりと、沈黙の時が流れていく。


「――分かりました」


根負けしたような小さい声が耳に届いて、拓郎はばっと顔を上げた。


「でも、モデルは出来ません。それでもいいなら、お話を聞きます」


小さいがはっきりとしたその声に、拓郎は少女の意志の強さのようなものを感じ取った。


自分に真っ直ぐ向けられている、少女の茶色の瞳を覗き込む。


『意外と頑固かも』


そんな印象を持った。


でも、まずは第一歩。


話を聞いて貰えれば、説得する自信はある。


「ありがとう!」


拓郎は礼を言い、緊張気味に自分を見返す少女に、ニコニコと会心の笑顔を向けた。